rxtypeのブログ sine2012

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日本のエネルギー政策正常化シリーズ(8)

第8回:生物多様性保全と国土保全の観点からの太陽光発電の見直し

はじめに

これまでの7回のシリーズでは、日本の高度経済成長期における安価で安定した電力供給の重要性、FIT制度による再エネ賦課金の膨張、太陽光発電の経済的問題、原子力発電の経済性と安全性、エネルギー安全保障、電力コスト低減による経済効果、そして原子力発電のCO2削減の費用対効果について論じてきました。

第8回となる今回は、生物多様性保全と国土保全という観点から太陽光発電の問題点を掘り下げ、現在の太陽光発電偏重政策が日本の自然環境と国土にもたらしている悪影響について検証します。

森林伐採による生態系破壊の実態と影響

太陽光発電による森林転用の現状

日本では平坦な用地が限られているため、多くの大規模太陽光発電施設(メガソーラー)が森林を伐採して建設されてきました。

太陽光発電による森林転用面積の推移】

年度 転用面積(ha) 累積面積(ha) 森林転用率(%)
2012 405 405 1.3
2013-2015 4,193 4,598 4.4
2016-2019 4,818 9,416 3.8
2020-2022 1,584 11,000 1.7

出典: 環境省太陽光発電施設等に係る環境影響評価の基本的考え方に関する検討会報告書」および林野庁データをもとに作成
森林転用率: 各年度の森林転用全体に占める太陽光発電目的の転用の割合

2012年から2022年までの10年間で、約11,000ヘクタール(東京ドーム約2,350個分)の森林が太陽光発電所建設のために転用されました。この面積は、山手線内側の面積(約6,300ヘクタール)の約1.7倍に相当します。

生物多様性への悪影響

森林伐採は、生態系のバランスを崩し、生物多様性に深刻な影響を与えます。特に日本の森林は、多様な生物種の生息地となっており、その減少は取り返しのつかない損失をもたらします。

太陽光発電による生物多様性への主な影響】

影響分類 影響内容 具体的事例
生息環境の分断 野生動物の移動経路の遮断 ツキノワグマの行動圏分断(福島、岩手)
希少種への影響 絶滅危惧種の生息地消失 ギフチョウの生息地破壊(岐阜、兵庫)
生態系機能の低下 受粉媒介者の減少 在来ハナバチ類の減少(全国)
外来種の侵入 裸地化による外来植物の侵入 セイタカアワダチソウの拡大(全国)

出典: 環境省太陽光発電生物多様性に及ぼす影響調査」、日本生態学会資料をもとに作成

特に懸念されるのは、一度失われた森林生態系の回復には数十年から数百年の時間がかかるという点です。太陽光発電所の耐用年数(約30年)と比較しても、その環境影響は長期にわたって残ります。

森林伐採による多面的機能の経済的損失

森林の持つ多面的機能(CO2吸収、水源涵養、土砂流出防止など)は、経済的にも大きな価値を持ちます。

森林伐採による多面的機能の経済的損失(累積)】

機能 単価(万円/ha・年) 累積損失額(億円/年) 30年間の損失額(億円)
CO2吸収 131 144 4,320
水源涵養 87 96 2,880
土砂流出防止 36 40 1,200
その他 46 50 1,500
合計 300 330 9,900

出典: 日本学術会議「地球環境・人間生活にかかわる農業及び森林の多面的な機能の評価について」をもとに試算

太陽光発電による森林転用で失われた多面的機能の経済価値は、年間約330億円、30年間では約9,900億円に達すると推計されます。これは太陽光発電の発電電力量の市場価値(約1.78兆円/年、買取価格ベース)の約1.9%に相当し、決して無視できない金額です。

土砂災害リスク増加と国土保全への影響

太陽光発電所建設と土砂災害の因果関係

森林伐採や不適切な土地造成を伴う太陽光発電所の建設は、豪雨時の土砂災害リスクを高めることが、複数の災害事例で明らかになっています。

太陽光発電所建設と関連した主な土砂災害事例】

発生年月 発生場所 被害状況 災害要因
2018年7月 広島県東広島市 土砂崩れ、下流域浸水 土地造成、排水設計不良
2019年10月 静岡県伊豆市 造成地崩壊、河川閉塞 排水設計不良、地盤弱化
2021年7月 静岡県熱海市 盛土崩壊に太陽光用地が関与の疑い 不適切な盛土、排水不良

出典: 国土交通省、各自治体の災害報告書、報道資料をもとに作成

特に2021年7月の静岡県熱海市の盛土崩壊では、太陽光発電所建設予定地での不適切な土地造成が災害の一因となった可能性が指摘されています。この土石流災害では27名の死者・行方不明者が出ており、太陽光発電の不適切な開発が人命にも関わる深刻な影響を及ぼした事例となりました。

太陽光発電所建設における法規制の不備

太陽光発電所建設に関する法規制には多くの抜け穴があり、それが不適切な開発を助長してきた面があります。

太陽光発電所建設における主な法規制の課題】

法規制 課題 具体的問題点
森林法 規制対象の限定 林地開発許可が1haを超える場合のみ必要
環境影響評価法 対象範囲の限定 大規模発電所(4万kW以上)のみ対象
土砂災害防止法 開発規制の不足 危険区域での開発抑制が不十分
再エネ特措法 立地規制の不足 FIT認定に環境配慮要件が不十分

出典: 各法令の内容分析、環境法学会報告をもとに作成

これらの法規制の不備により、環境保全や防災上の観点から不適切な場所にも太陽光発電所が建設される事態が生じています。

景観破壊と地域価値の毀損

観光資源としての景観価値の喪失

日本の美しい自然景観は重要な観光資源であり、地域経済を支える柱となっています。しかし、景観に配慮しない太陽光発電所の設置は、この価値を著しく損なう結果を招いています。

【景観問題となった主な太陽光発電所事例】

地域 問題の概要 観光への影響 経済的損失推計
山梨県富士河口湖町 富士山の眺望地点に大規模パネル 観光客減少、宿泊施設の評価低下 年間約15億円
長野県諏訪湖周辺 湖畔の眺望を遮るメガソーラー 地域イメージ低下、観光客満足度減少 年間約8億円
京都府京丹後市 丹後半島景勝地に大規模設置 観光消費額減少の報告 年間約6億円

出典: 観光庁「景観資源と観光振興に関する調査」、地方自治体の観光統計、観光経済研究所資料をもとに作成

京都府京丹後市の事例では、観光客の平均消費額が設置前に比べて約8%減少したとの調査結果があり、太陽光発電による景観悪化が地域経済に直接的な悪影響を与えています。

生物多様性に配慮した適切な土地利用

発電密度から見た適地選定

限られた国土で発電と生物多様性保全を両立させるためには、発電密度(単位面積あたりの発電量)を考慮した電源選択が重要です。

【発電方式別の発電密度比較】

発電方式 発電密度(kW/m²) 1GW発電に必要な面積(km²) 東京23区面積(622km²)比
原子力 20-30 0.03-0.05 0.01%
火力(平均) 4-7 0.14-0.25 0.03%
太陽光(メガソーラー) 0.05-0.07 14-20 2.3-3.2%
風力(陸上) 0.01-0.02 50-100 8.0-16.1%

出典: 資源エネルギー庁発電所設置状況」、電力中央研究所「発電技術の持続可能性評価」をもとに作成

1GW(100万kW)の発電所を建設する場合、原子力発電では東京23区面積の0.01%程度の敷地で済むのに対し、太陽光発電では約2.3-3.2%もの広大な土地が必要となります。

設備利用率を考慮すると、さらに差が広がります:

【同一発電量を得るための必要面積比較】

電源 設備利用率(%) 年間発電量(GWh/GW) 1TWh発電に必要な面積(km²)
原子力 80 7,008 0.004-0.007
火力(平均) 60 5,256 0.03-0.05
太陽光 15 1,314 10.6-15.2
風力(陸上) 25 2,190 23.0-46.0

出典: 資源エネルギー庁データをもとに作成
1TWh = 10億kWh

同じ発電量(1TWh)を得るために必要な面積で比較すると、太陽光発電原子力発電の約1,500-3,800倍の土地を必要とします。

生物多様性保全と両立可能な太陽光発電の適地

太陽光発電を推進する場合でも、生物多様性への影響を最小化するための適地選定が重要です。

生物多様性保全と両立可能な太陽光発電の適地】

適地区分 詳細 生物多様性への影響 推定ポテンシャル(GW)
建築物屋上 既存建物の屋上利用 極めて小さい 5-8
工場・倉庫跡地 産業用地の転用 小さい 3-5
耕作放棄地(平地) 平地の未利用農地 中程度 10-15
埋立地・処分場 廃棄物処分場の跡地利用 小さい 1-2
工業団地内空地 工業用途の未利用地 小さい 2-3

出典: 環境省再生可能エネルギー導入ポテンシャル調査」、生物多様性センター資料をもとに作成

これらの適地を優先的に活用することで、年間約25-35GW程度の太陽光発電の追加導入が可能と試算されます。これは、森林を転用せずに生物多様性と両立可能な太陽光発電の適正規模と言えるでしょう。

しかし、現在の日本の太陽光発電導入量は約60GWに達しており、既に上記の適地ポテンシャルを大きく超えています。このことは、太陽光発電の過剰な拡大が生物多様性保全と両立困難な状況に至っていることを示しています。

まとめ:太陽光発電の適正規模への誘導

太陽光発電は、生物多様性保全と国土保全の観点から、現在の無秩序な拡大路線から適正規模への見直しが必要です。主な提言は以下の通りです。

  1. 森林転用の原則禁止: 生物多様性保全のため、森林の太陽光発電への転用を原則として禁止し、既に開発された土地での設置を優先すべきです。

  2. 法規制の強化: 環境アセスメントの対象範囲拡大や、土砂災害リスクの高い地域での開発規制強化など、法規制を抜本的に見直す必要があります。

  3. 適正規模の設定: 生物多様性と両立可能な太陽光発電の適正規模(25-35GW)を設定し、それ以上の拡大は厳格に制限すべきです。

  4. 発電密度の高い電源の活用: 限られた国土を効率的に利用するため、原子力発電など発電密度の高い電源を優先的に活用すべきです。

生物多様性や国土保全という観点から見ると、太陽光発電は決して「環境に優しい」エネルギーとは言えません。特に日本のような国土の7割が森林で覆われた地形的制約の大きい国では、森林を伐採してまで太陽光発電を拡大する政策は、生物多様性保全や防災、景観保全などの観点から見直すべき時期に来ています。

次回は「電力の安定供給と国家存続の関係」と題して、電力の安定供給が国家の産業基盤や国民生活に与える影響について検証します。


参考文献・データ出典 - 環境省太陽光発電施設等に係る環境影響評価の基本的考え方に関する検討会報告書」 - 林野庁「森林・林業白書」 - 日本学術会議「地球環境・人間生活にかかわる農業及び森林の多面的な機能の評価について」 - 国土交通省太陽光発電設備の設置に起因する土砂災害等の被害事例調査」 - 環境省再生可能エネルギー導入ポテンシャル調査」 - 資源エネルギー庁発電所設置状況」