rxtypeのブログ sine2012

amebloから引っ越してきました。経済関係が中心です。メデイアではお目にかかれない斬新かつ本質的な視点を提供します。

ク。国の借金について(2)

第2回 国債と経済成長 - 古い地図で新しい海を航海する危険

16世紀、古い地図を信じて航海を続ける船乗りがいる一方で、新しい観測に基づいた地図を使う船乗りもいました。今日の経済政策も似たような状況かもしれません。

「国の借金は常に悪である」という考えは、まるで平面の世界地図のように単純で分かりやすいものです。しかし現実の経済は地球のように丸く、複雑です。

現代経済学の重要な発見の一つに「経済成長率が金利を上回れば、国の借金の重みは自然と軽くなる」というものがあります。これはちょうど、「地球は実は丸い」という発見のように、見方を根本から変えるものです。

この関係は経済学では「r < g」(金利 < 成長率)と表現されます。簡単な例で考えてみましょう。あなたの年収が毎年3%ずつ増えていくのに、借金の金利が1%だとします。このとき、同じ金額の借金でも、年を追うごとにあなたの収入に対する負担の割合は小さくなっていきます。5年後、10年後には、その借金はずっと軽く感じるはずです。

国の経済も同じ原理で動きます。日本の戦後復興期や高度成長期には、政府は積極的に国債を発行して道路や港、学校や病院を建設しました。この「先行投資」が経済成長を支え、結果的に国の借金の比率は自然と小さくなっていきました。

対照的に、1990年代以降、「財政健全化」の名のもとに緊縮財政が続いた時期は、経済成長が停滞し、皮肉にも借金の比率は増え続けています。これは緊縮政策が経済活動を冷やし、税収の伸びを抑制したためとも考えられます。

「公共事業は無駄だ」という批判をよく耳にします。確かに人口減少地域に巨大な橋を架けるなど、明らかな無駄はあります。しかし問題は「投資先の選択」であって、「投資そのもの」ではないのです。教育、科学技術、社会インフラ、エネルギー転換、防災など、未来への投資分野は多く残されています。これらを全て「無駄」と決めつけることは、新大陸の存在を否定するようなものかもしれません。

小泉政権時の「骨太の方針」以降、日本の公共投資GDP比で大きく減少しました。その結果、老朽化するインフラが増え、自然災害への脆弱性が高まっています。また、研究開発投資の伸び悩みは、日本の国際競争力低下の一因ともなっています。

次回は、緊縮財政派の「聖典」となっているある研究の限界と、その後の学問的検証について見ていきましょう。